納品できる翻訳者になろう! 第3回 実務翻訳の分野(2)

納品できる翻訳者になろう!

――ひよこ翻訳家のための基礎知識講座――

井田 綾

第3回 実務翻訳の分野(2)映像翻訳

引き続き産業分野で求められている翻訳についてご紹介します。

 

【放送翻訳】

ニュース特派員の海外取材ビデオに入っている外国語音声を日本語訳する仕事です。ニュースは24時間飛び込んでくるので、テレビ局では常に翻訳者と連絡がつくようにネットワークを作っているそうです。ビデオ映像をインターネット経由で翻訳者に届け、それを翻訳させる方式や、テレビ局に一定時間常駐できる翻訳者を確保する方式で報道資料が作られます。中国語であれば中国語ネイティブも日本語ネイティブもどちらも活躍しています。

ただしテレビ局に出向いての仕事となると、居住地がテレビ局への通勤範囲内でなければ無理ですし、夜間要員になると家庭を持つ人は対応しにくいというわけで、語学力さえあればだれでもできるという仕事ではありませんね。

放送局から番組制作を受注する制作会社でも同様の翻訳者が必要で、オンサイト(出勤)と在宅勤務とを組み合わせた求人も見かけることがあります。

 

【放送通訳】

ニュース番組などの音声多重放送をお聞きになったことがあると思います。海外のニュース番組をそのまま日本国内で放送する場合、主音声の英語なり中国語なりに副音声でかぶせる形で日本語が流れます。この日本語を読み上げているのが、放送通訳者の方々です。

雰囲気としては同時通訳のようにも聞こえますが、放送通訳者は事前に当該ビデオを見て、内容を聞き取って把握し、ビデオの長さに合う日本語原稿を作っておきます。そして、そのビデオが放送される際に、アナウンサーのようにマイクに向かって原稿を読み上げます。音声で情報を発信するので「通訳者」なのですが、事前準備として聞き取りと翻訳が重要な作業となります。

こうした方々には、同時通訳者として長いキャリアをお持ちの方も多く、少数の優秀な方が固定しているようですので、新規参入は狭き門です。前項の放送翻訳に比べると、定時の仕事が主体なのでスケジュールを立てやすく安定した仕事といえますが、求められる能力の高さ、およびポストの希少性によって、あこがれの高根の花のような状態になっています。

 

【字幕翻訳】

映画やテレビドラマの日本語版字幕を作る仕事です。登場人物のセリフを、俳優が話している時間内に視聴者が読み切れる量の日本語に訳し、かつ作品の流れを邪魔せず、ストレスなく楽しめるよう工夫が求められます。

視聴者が目で字幕を追える量は1秒間に4文字とされているので、1秒のセリフなら4文字に、5秒のセリフなら20文字に収まる字幕を作ります。当然、セリフの細部まで詳細に訳出すると文字数オーバーとなり、視聴者が内容を把握する前に次のセリフが始まってしまうということになりますので、セリフの中心的内容をつかみ取り、それを凝縮した表現ができる日本語文を探すという能力を訓練しなければなりません。原文と訳文の文字上の情報量が一対一にならない点で、普通の翻訳よりもリライト要素の強い作業になります。でも、意味上の情報量は一対一にならなければならない……。けんかの場面など早口のセリフでは原文の情報量がぐんと多いので、ますます圧縮技術が必要です。

そのあたりの苦労話は、英語字幕翻訳者の太田直子さんによる『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』ほか、多くの字幕翻訳者さんが楽しいエピソードを書いてくれています。Amazonなどで「字幕翻訳」と検索してみてください。

 

【ドキュメンタリー字幕】

テレビ特集番組などの字幕を作る仕事です。インタビュー音声の字幕とナレーション音声の字幕が必要です。国内放送局制作の番組ならもともと日本語なのでナレーションは翻訳不要ですが、インタビュー映像の音声に台本がありませんので、現地の言葉を聞き取るネイティブ並みのリスニング能力が求められます。

数分間に及ぶ長い発言などは、かなり文字数の多い字幕にならざるを得ないことがあります。前項のような映画やドラマなどの娯楽作品とは異なり、ドキュメンタリーの場合は、視聴者が意欲を持って読んでくれるという前提に立ち、字数制限を気にするよりは内容を正確に伝える字幕を作る、というスタンスになるようです。

 

【ゲーム】

2017年から2018年は中華圏のゲームを日本版にローカライズする案件が急増しています。求人情報サイト「翻訳者ディレクトリ」を見るたびに、ゲーム翻訳者の求人が目に入ります。10年前とは案件数が桁違いのようです。

ゲームは一定のストーリーに沿って進行し、登場人物のセリフが多いなど、小説のような原文を翻訳するので、柔らかい日本語に翻訳できるスキルが必要です。ただし、すべてが小説原稿のような原文ばかりではなく、類似した大量の短いセリフや、作中に登場する大量のアイテム名のリストの翻訳なども含まれ、単純作業に耐えられる精神力や時間管理力も必要です。

而立会会員で現役ゲーム翻訳者のみんずさんが、ブログ「中国語ゲーム翻訳者の手帖」(http://gamehonyaku.com/)で様々な業界情報を発信していらっしゃいます。ぜひご覧ください。

 

*次回は訳語調査についてご紹介します。

 

〔筆者プロフィール〕

翻訳者、発音講師、而立会認定中日翻訳士。中国史を専攻し、北京大学の大学院聴講生として民俗文学・民間文化を学ぶ。第二言語習得論と翻訳に魅了され、帰国後は中国語講師、翻訳コーディネーター、(株)東方書店で社内翻訳と書籍編集制作に携わったのち独立。訳書に『街なかの中国語』(東方書店)など。

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